高知地方裁判所 昭和58年(モ)566号 判決
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【判旨】
そこで次に、本件仮処分には特別事情が存する旨の申立人の主張について判断する。申立人の主張の骨子は、次のとおりである。即ち、「被申立人は、第三者へ転売する目的で本件土地等を取得せんとしているのであるから、本件土地の客観的に妥当な転売利益を補償することによつて、本件被保全権利は、その終局的目的を達することができるというべきである。そして、右の本件土地の客観的に妥当な転売利益は、あがるかどうか疑問であるが、あがるとしても、せいぜい本件土地価格の一割ないし二割程度である。」というのである。
仮処分の被保全権利が金銭的補償によつて、その終局の目的を達することができる場合には、仮処分を取消すべき特別の事情があると解すべきことは、申立人、被申立人双方とも異論のないところであるが、被申立人は、本件仮処分の被保全権利は、売買契約に基づく本件土地の所有権移転登記請求権であるから、その終局の目的は、特定物の給付そのものであり、金銭的補償によつて、これを達することができない性質のものである旨主張するので、まず、この点につき一言する。金銭的補償が可能であるか否かは、被保全権利の性質、内容のみから形式的に判断するものではなく、本案訴訟及び仮処分の種類、内容、仮処分の取消によつて生じる仮処分債権者の損害の程度、その損害賠償の難易などの諸般の事情を総合的に考慮した上で客観的に判断しなければならない。従つて、本件の仮処分の被保全権利が売買契約に基づく所有権移転登記請求権であるとの一事をもつて、これを否定すべきではなく、右のような観点からして、結局仮処分債権者である被申立人が金銭的補償によつて、所有権移転登記請求権の実現と同等の満足を得ることができるか否かによつて、決すべきである。
そこで、具体的に本件をみてみるに、<証拠>によれば、被申立人は、コンクリートポンプ打設、不動産売買、宅地造成などを業とする株式会社であり、本件土地は、その周辺土地を買い足して開発した上で、第三者に転売する目的で取得したことが認められ、これを覆すに足りる疎明はない。そうだとすれば、被申立人の申立人に対する本件土地の所有権移転登記を求める本案訴訟及びそれを確保するためになした本件処分禁止の仮処分は、直接的には、所有権移転登記を求めることにあるが、終局的には、右の転売計画により取得すべき転売利益を確保するためのものであるといつてもよい。換言すれば、被申立人がこの転売利益のうち、まずは少なくとも、本件土地の転売利益に見合う部分の金銭的補償を受けられれば、抽象的には、本件被保全権利を実現したと同様の効果をもたらす可能性が生じてくるのである。
問題は、右の転売利益額を把握できるかである。この点、申立人は、本件について、転売利益が実際にあがるか否か疑問視しつつ、仮にあるとしても、それは、せいぜい本件土地の価格の一割ないし二割である旨主張する。なるほど、もし被申立人が本件土地だけをそのまま手を加えずに転売するというのであれば、見込まれる転売利益を認定することも、場合によつては、可能であろう。しかしながら、被申立人の転売計画は、既に認定した如く、単に本件土地だけを右から左に転売するというものではなく、本件土地に、その周辺土地を買い足して開発した上で転売するというものであり、しかも、本件全記録によるも、買い足しをする周辺の土地の地目、面積、開発計画の全容が明らかになつていないのであるから(もつとも、申立人自身、被申立人の転売計画が未だ、具体性を有していないことは、自認するところである。第五回口頭弁論調書)、本件土地自体の転売利益も周辺土地の買い足し状況、開発計画の内容等により、当然変つてくるものであり、一律に客観的に決せられるものではない。さらにいえば右のような不確定要素がある本件においては、本件土地の転売利益の算定は、不可能あるいは、少なくとも著しく、困難であるというべきである。かように、被申立人の転売利益の算定ひいては、仮処分の取消によつて生じる仮処分債権者の損害の算定が不可能ないしは、困難である場合には、前記の金銭的補償の可能性は、否定されると解すべきであるから、結局本件においては、被保全権利が未だ金銭的補償により終局の目的を達しうる特別の事情があるとは認めがたいといわざるを得ない。
(山崎学)